2020.07.21

somemore people

すでにあるものに、
自分たちが欲しい「もうちょっと」をデザインすることで、
快適さや楽しさを提案するsomemore。

「somemore people」では、
仕事やライフスタイルで「もうちょっと」を形にしながら、
楽しさや新たな風景をつくりだしている人々を紹介していきます。
すでにあるものに、
自分たちが欲しい
「もうちょっと」をデザインすることで、
快適さや楽しさを提案するsomemore。

「somemore people」では、
仕事やライフスタイルで
「もうちょっと」を形にしながら、
楽しさや新たな風景を
つくりだしている人々を紹介していきます。

VOL. 07 原田和明(1) 「カラクリを作る」 「カラクリを作る」

6月中旬。新宿はBEAMS JAPANの5階にあるアートスペース「B ギャラリー」では、オートマタ作家の原田和明さんの展覧会が行われていた。オートマタとは、ヨーロッパで生まれた西洋式からくり人形のことで、木のハンドルを回すことで動き出す想像の世界が、人々を魅了する。

2002年より原田めぐみさんと二人三脚でオートマタの製作をはじめ、昨年の2019年にはこれまでの作品をまとめた作品集も出版された。作品集をつくってからの展覧会は、今回がはじめてだという。山口県のアトリエから世界へ広がる原田さんに、展覧会のこと、作品のあり方について、「somemore」な話を伺った。


(作品集『話せば短くなる 原田和明のオートマタ』写真:鍵岡龍門)

 
原田和明さん:コロナの影響もあって、今年に入ってから作品集を知ってもらう機会が減っています。今回の展示が実現できて本当に良かったです。本が出版されてから初めての個展なので、タイトルも書籍と同じ『話せば短くなる』にして、本のお披露目という位置付けにしました。できればこの状態でいろんな場所で展示したいです。

展示は、作品が備える愉快なモチーフやストーリーの源流にある気品さを、そのまま実空間へ拡張したような設えとなっている。会場にはこれまでに制作した代表的な作品と合わせて、本展に合わせて作られた新作も並んでいた。

原田めぐみさん:しばらくはずっと工房から移動もできなくて、時間だけはありました。予想以上に新作は増えましたね。

原田和明さん:これまでの作品を40点ほど、新作も6点増えました。ほとんどのお客さんはどの作品も初見だと思うので、新作であるかないかはお客さんにとってあまり大事ではないと思います。だけど同じ作品を展示するだけでは自分が楽しめないので、誰に頼まれるわけでもなくいつも新作を勝手に作ります。新作を作らないほうが時間にも気持ちにも余裕ができるのに、気がつくとギリギリまで試行錯誤を繰り返して、ふと「なんでこんなに苦労しているんだろう?」となることもあるんですけど。今回は発表したかった作品が予定通りに進まず、東京へ向かう電車の中でもまだ調べ続けていて、さすがに「もう間に合わない!!」と心が折れそうになりました。

作品の制作ペースはばらばらだけど、早いものでは1日半で仕上がった作品もあるという。

原田和明さん:例えば、今回の機会で制作した「ソーシャルディスタンス」という作品は、アイデアを思いついてから形にするまでだいたい1日半でした。時事ネタを盛り込んだ作品って、当たり前だけどすぐに古くなってしまう。だから時間をかけずに発表したいっていう思いが強くて、わずか1日半で完成しました。アイデアを形にするのに、思いつく限り一番シンプルな方法を使いました。 

 
あと、今回会場の真ん中に配置したちゃぶ台返しの作品は手こずりました。コントローラーとロボットが先に出来上がって、あとは“ちゃぶ台”を作るだけ。いざ完成して試しに動かしてみると、“ちゃぶ台”がひっくり返らない。腕の力が弱いのかな?なんていろいろ試行錯誤してみたものの、どうも思うようにならない。それを見かねた妻が「ちゃぶ台が重たいんじゃない?」って言ってくれたんです。そこで形を変えて軽い素材にしてみたら、ひっくり返る確率がグンとあがったんです。 

 
 
原田めぐみさん:それでも時々ちゃぶ台が立つので、「テーブル脚に角度を付けて、天板より外側に出したらどうかな?」と提案したら、綺麗に「くるっ!」て。その瞬間は「ひっくり返った!ココだったんだ!」って二人で盛り上がりました。(笑)

 プログラミングや木工のフォルムよりも、ちゃぶ台の構造に苦戦するなんて作ってみないと本当にわからないですね。

原田めぐみさん:そうなんです! 何でもやってみないとわからないことだらけで。

原田和明さん:こういう時期の展示だからどうなるか不安もありましたが、みんなの楽しむ姿を見られて安心しました。今回、新作を工房で作っている時に、ふと『僕はこういう物を作れるおじさんになりたかったんだ』って気がして、なんだか感慨深かったです。いつも新作は一心不乱に作っているもので、完成後3日間ぐらいは使いものにならないくらい脱力しています。 
(次回に続きます)



取材協力:B GALLERY
Photo:小財美香子 Text:浦川彰太

原田和明(Kazuaki Harada)

1974年 山口県生まれ。2002年よりオートマタ制作を始める。2006年よりファルマス大学大学院で現代工芸コースを専攻すると同時に、オートマタ制作の第一人者マット・スミス氏の工房でも研鑽を積む。2008年に山口県山口市に工房『二象舎』を設立、オートマタ制作やオートマタコレクション展の企画、ワークショップなどを行っている。2019年に初の作品集『話せば短くなる 原田和明のオートマタ』を出版。
webサイト: http://nizo.jp/
Twitter: https://twitter.com/kazu_automatist
Instagram: https://www.instagram.com/kazu_automata/