2019.06.28

somemore people

すでにあるものに、
自分たちが欲しい「もうちょっと」をデザインすることで、
快適さや楽しさを提案するsomemore。

「somemore people」では、
仕事やライフスタイルで「もうちょっと」を形にしながら、
楽しさや新たな風景をつくりだしている人々を紹介していきます。
すでにあるものに、
自分たちが欲しい
「もうちょっと」をデザインすることで、
快適さや楽しさを提案するsomemore。

「somemore people」では、
仕事やライフスタイルで
「もうちょっと」を形にしながら、
楽しさや新たな風景を
つくりだしている人々を紹介していきます。

VOL. 03 川尻大介(2) 気持ちをつくる編集志向 気持ちをつくる編集志向

前回の「本を生み出す編集思考」の続きを本日はどうぞ。

書籍編集を中心に活動する川尻大介さん。コレクティブな働き方へ変化すると同時に、服装についても考えることが。 
 
「サラリーマンだった経歴と関係しているのか、会社に所属していた時は、当たり前のようにネクタイをしめて背広を着ていたので、自然とTPOをわきまえた格好になってしまうんです。クライアントとの打ち合わせにスニーカーなんてありえない! というふうに。」  
 
「たとえば今、博物館のリニューアルプロジェクトに携わっているのですが、関係者が多く打ち合わせの場面もさまざま。そんなとき、今日の会議に見合った格好ってどんなだろうって。会社を辞めた後で本当はそんなこと気にする必要はないのかもしれないんですけど、どうもできない。」  
 
服装によって、気持ちをつくり込んでいるのでしょうか。  
 
「そうかもしれません(笑)。あとは自分の主張をしっかり通したい場面ではきちんとした格好の方が対等な議論がしやすいですし、スーツをニュートラルに持っておく感覚ですね」  



その他にも服装についてこだわりはあるのでしょうか。  

「細かなところですが、Tシャツはリブが補強されているものを選ぶとか。最近は量販店のものも改良されていますが、コムデギャルソンのものは首回りが伸びないように昔からすべてそうなっている。すぐに傷んでしまうものはいくら格好よくてもちょっと躊躇しますよね。」 
 
デザインというよりも機能面を大切にしているんですね。  
 
「ファッションブランドへの憧れだけで選ぶのはどうも違うなあと思うんです。やっぱり長い時間をかけて一つのものを作り続けるなかで培われた経験が必要だと感じる。それは出版社にいてもそうでしたし、そこから離れた以上、自分のものづくりにおいても必要なことだと思っています。」  
 
「それで言うと、somemoreのシャツって、デザイナーの森蔭さんが手がけるもうひとつの『モリカゲシャツ』との関係性の中で位置付けていると思うんですが、そこにはちょっとした遠慮のようなものがあって、どちらかというと『someless』なんじゃないかと思うんです。」  
 
「つまり作りたいものをどんどん作って片っぱしから売る、ということではなくて。そこでしか手に入らないものを、身の丈にあった数だけつくってみる。そんな姿勢がとても良いと思いました。」 

 

最後にsomemoreな目標があれば教えて下さいと聞くと、意外な答えが返ってきました。  
 
「これは具体的な出版事業や形のある目標ではない、漠然とした話になってしまうのですが、これからは数字に拠らない価値みたいなことをもうすこし考えていきたいと思っているんです。」 
 
「たとえば本が何百冊売れましたというときに、それはもちろんひとつの指標になりうるんですが結局数字で判断している以上、それ以上の手ごたえを得ようとするならば、もっと本を売るしかなくなる。でも自分たちのやる気を支えるものってそもそも数字で測れるわけない。サラリーマン時代を振り返ると、数字に拠って価値を測ることになれっこになっていて、目の前にあることの深みを感じとれなかったなと反省するんです。」 
 
「そういうことを考え始めるきっかけは1年ほど前に始めた水泳だったりするんだけど。」 
 
水泳、ですか。   
 
「そう。それでも、泳いでいて今月は何キロ減量したとか、何キロ泳いだとか成果を数字で測っている自分がいるんですよ。水泳を始めたのも旅行先のプールで久しぶりに泳いでみてすごく楽しかった、それだけのことなのに。些細なことかもしれないけれど、数字って自分たちの意欲を上げてくれると同時に、減退させるものでもあると再認識したんです。」  
 
「だから泳ぎはじめてからは、安易な成果主義に陥らないことも大事なんじゃないかなと思うようになってきました。今日はもうちょっと早く泳ぎたいとか、隣りの上級コースで泳いでいるあの人を目標にしてみよう、とか。」  
 
言葉にする上でも数字はわかりやすい指標のひとつにもなるので、自分もついつい使ってしまいます。 
 
「ふつうに生活している以上、誰しも数字に縛られてしまう場面ってあると思うんですが、そういった時に、どうやって意識を変えられるか考えてみると、somemoreな話につながってくるんじゃないでしょうか。だからこそ、数値的な前提から離れて、ちょっと違う基準を求めていけると面白い思考が広がるような気がしています。」 


Photo:小財美香子
Text:浦川彰太

川尻大介(Daisuke Kawajiri)

大学で建築を学んだ後、建築・デザインを専門とする鹿島出版会に入社。『B面がA面にかわるとき(増補版)』や『戦後東京と闇市』、『日土小学校の保存と再生』など、60冊ほどの書籍の企画・編集に携わる。2017年より鹿島建設広報室勤務、2018年に鹿島出版会を退社。同年秋よりスペルプラーツで出版・Webコンテンツの企画・制作に従事する。2016年からは福島県の原発事故避難12市町村の地図集制作プロジェクト「福島アトラス」に編集者として参加(監修:青井哲人、発行:福島住まい・まちづくりネットワーク)。この活動は2018年にグッドデザイン賞(ベスト100、特別賞)を受賞したほか、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2018日本館展示にも出展。