好きなものにずっと興味をもっていたら、ここまで来れた。これまでの活動をさらっと話してくれたクニモンド瀧口さん。
自身のプロジェクト「流線形」を2003年に開始。最近ではプロデュース業や楽曲提供、選曲など、音楽活動を中心とした話がどんどん出てくる。
さまざまな経験を持ったクニモンドさんだけど、自身の音楽活動においては「somemore(もうちょっと)」よりも、「Less is More(より少なく)」という視点を常に持っているという。それは、とあるレコーディング時のできごと。
話を聞いたのは、クニモンドさんが行きつけのカフェ「nico」。
夕陽が差し込みゆっくりとした時間が流れる店内で、これまでの活動を聞いた。
「僕自身の音楽活動は『流線形』というバンドがあって、2003年、2006年、2009年とアルバムをリリースしています。それから10年も間が空いてしまっていますが。他にはプロデュース業や楽曲提供、アレンジなど、色々やっています。」
「プロデュース業の中でも特に話題になったのは2012年にプロデュースした一十三十一さんのアルバム『CITY DIVE』のときだったかな。当時ビルボードレコードから発売されて、スマッシュヒットしたんです。それからプロデュースやアレンジャーといった類の依頼が増えてくるようになりました。同時に、そのアルバムで現在のシティポップの原型のようなものも出きてきて、シティポップミュージックにまつわる連載やインタビューに呼ばれるということが増えましたね。」
現在のシティポップの流れをつくったクニモンドさん。さらに遡ってみると、小学生・高校生と学生時代での出会いが今を大きく形にしていたそう。
「小学生の頃はフォーク/ニューミュージックっていうジャンルの音楽が流行っていて、山下達郎とかすごい聞いていました。リアルタイムで流行っていた経験は何よりも大きいですね。もちろん洋楽やジャズ、ソウルミュージックなんかも聴いてきましたし、ジャンルなんて尽きないんだけど、今だに好きで聞いてるのはフォーク/ニューミュージック。」
「それから話は高校時代にまで飛ぶんですけど、録音機材やキーボードなどの楽器機材テクノロジーが加速的に発達したんですよ。比較的安い録音機材を自分が扱えるなんて思ってもいなかった。それまでは録音するにもラジカセを二台向かい合わせで置いて、一台はギターの弾いている音を、もう一台はべースの音を流すといったことをやっていましたからね。あの頃はとにかく音楽を作りたい欲求が強くてどんな条件でも関係なかった。カセットテープのスピードがばらばらだったから、いちいち調整しなきゃいけないのは大変だったけどね。ただ、今考えるとそういう苦労こそいい経験だったのかなと思いますよ。音楽を録音をしはじめたのは高校生一年生の頃からでしたね。」
音楽を「きく」から「つくる」へ。そして音楽作りは自身の活動として広がっていくことに。
流線形の活動もあれば、プロデュース業やDJ活動などなど。なかでも特に印象に残っていることは、2003年にはじめてアルバムを作った時のできごと。
「最初のアルバムを制作したメンバーは、僕と僕の影響を受けて山下達郎が大好きになった後輩と、林さんという3名でした。僕は右も左もわからない状況だったんだけど、林さんは既にプロとして長年活動していたからものすごいノウハウがあって、レコーディングの様子を見よう見まねで学んでいました。その時に学んだことのひとつが今でも生きていて、『引き算をすること』でした。サビ=盛り上がるものだと思ってた僕は、音をいっぱい詰め込んで音色を厚くしがちでした。けれども林さんは『サビは何を聞かせるかが大事だから、音をたくさんに入れる必要はない』って教えてくれて。あ、引き算なのにこんなに盛り上がるんだっていう感覚をはじめて理解しましたね。」
「ちょっと話がずれちゃうんだけど、髭剃りとかで有名なBRAUNっていうブランドがあって、そこでデザイナーをしてたディーター・ラムスという方が『Less is More』という言葉をよく口にしていて。彼は引くことによって本来描きたいものが表れてくるって考え方で、ジャンルは異なれど自分のやりたい音楽と近いと思いました。」
完成した1stアルバム『シティミュージック』は発売後、数多くの反響があった。
「僕と同じようにシティポップが好きで、山下達郎が好きでっていう人がたくさんいたことを知れた。もちろん評価は様々だったけど、世に作品を出すことで聞けないはずの声を知れたことは大きかったかな。趣味の延長でやったことだし、1枚出したら終わりにしようと思っていたけど、こんなにも聞いてくれる人がいるならやってもいいかなと思えるようになって、二枚目を作ることに決めました。その延長線上に今があります。もしそこで終えたとしても、今も自分だけが聴く音楽を宅録で録り続けているんでしょうね。」
(次回に続きます)